実践総合農学会  
 

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   先ほどの理事会で学会長にご推挙を頂きました山極でございます。新しい挑戦的な実践総合農学会の会長という重要な職責を承り,身の引 き締まる思いでございます。
 先ほどご紹介の学会設立の趣旨にありますように,20世紀は技術革新に支えられた経済 発展の時代だと言われております。また,21世紀は生命科学,環境,情報の時代と言われております。しかし,同時 に私は21世紀は真に人間の知恵が試される時代であり,人間の復権が期待される時代であると思っております。飛躍的な経済発展の影で20世紀は,多くの負の遺産を人類・生物・地球に残しましたが、21世紀はこうした負の遺産をどう精算するかという世紀であり,その中における農業の役割は大きく,その在り方が問われているように思います。
   戦後の農学の展開を見ますと,学問の進歩に伴って研究の専門分化や高度化が大変進み,研究領域も大きく拡大してきました。しかし,本来農学は生物生産という実践活動へとつながる実践科学であり,生命系の総合科学であります。そのため,最終的には農林水産業の経営現場において役に立つ個別技術,あるいはその統合化技術の開発が大きな課題になると思います。
   今大学における農学教育を見ましても,専門分野の細分化が進み,農業や農学に対する総合的視点が大変弱体化しております。また、農業に関する試験研究を見ましても現象を分解して分析する実験室型の研究が主流を占めており,事象をトータルに捉えるフィールドサイエンスとしての野外型研究が少なくなっており,問題解明のためのアプローチがアンバランスに成っています。ご存知のとおり,日本では大学,試験研究機関,普及組織の連携が極めて弱い状況にありますが,アメリカでは州立大学で農業に関する教育・研究とその成果の普及が一体的に実施できる体制が整っています。日本の大学に研究成果を普及するためのシステムが欠如していることが,大学における農学教育を現実の農業から遊離させる大きな要因のひとつになっていると思います。そのため,教育,研究,普及の密接なコミュニケーションシステムの確立が大きな課題になっていると考えています。
   東京農業大学を育てました近代農学の先導者と呼ばれております横井時敬先生は,学理は実践の中で初めて真価を得るという考え方から,農学の源泉を生産の現場に求め,それが近代的実証的方法によって検討され,体系化されて,その有効性を高めるという「実学」の思想を持ち続けました。その精神が,「稲のことは稲に聞け」「農業のことは農民に聞け」という言葉に,また農学の専門分化に伴う総合的視点の弱体化に対しては、これも有名な、「農学栄えて農業滅ぶ」という警世の言葉を残しています。
   これまでの農学が追求してきた価値目標はその時代の社会的要請によって異なりますが,21世紀の農学は地球という閉鎖系の中で環境を保全しながら持続的な生物生産を行い,人類の生存と幸福に寄与するものでなければなりません。
   実践総合農学会が発足するに当たって重要なことは、設立趣意書にもありますように21世紀は地球環境や資源の保全問題,安全・安心な食料を持続的に生産・加工・流通できる技術やシステムの解明、人類の健康を支える食と食文化の解明、あるいは人間ばかりではなく多くの生命が快適に生存できる地域環境の創造,と極めて高度に複合化された重要な課題への対応です。そのための新しい実践的総合的な問題解決型の農学を構築するということが、大変重要であります。そのためには、多様な専門知識や技術を総合することが重要ですが,そのためには農学研究者だけではなく実務経験者,生産者,消費者,企業など多様な価値観や知識を保有している人々のノウハウや知恵の活用が不可欠であります。
   このユニークな実践は産業としての農業の領域を超えて,未来の輝かしい「農」の世界を切り拓くものと確信しており,実践総合農学会の設立の意義はまことに大きいものがあります。
 大変微力でありますが,皆様方の力強いご支援をいただきながら、会長の責務を果たしたいと考えておりますのでよろしくお願いいたします。
   

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